コラム
みちしるべ
2024-08-02
鳥取県、島根県のことを指す「山陰」。「陰」という字には元々、北側という意味があり、中国山地の北側に位置する両県はそう呼ばれる。ただ字面もあってか、一般に浸透している山陰のイメージは、陰気などが思い浮かばれる▼山陰だけでなく、日本海側は太平洋側に比べ、全般的に産業が遅れて発展している。道路網、鉄道網を見ても、明確な差が生まれてしまった▼交通の便が悪ければ、企業誘致にも支障が出て、結果として先述の通り産業の遅れにつながっていく。ひいては太平洋側への人口流出にも結び付く▼県内の道路網はこの20年余りで、整備が大幅に進んだように感じる。問題は鉄道網。特に東部・中部は、いまだに非電化単線区間だ。最低限、複線化してもらわないと乗る人がそもそも居なくなる。(隼)
みちしるべ
2024-08-01
人の口から何回聞いても、自分の目で1回見るには及ばない―「百聞は一見に如かず」は、耳にしたことある有名なことわざだろう。仕事や生活の中で、実体験と重なる人も多いのではないか▼由来となったのは前漢王朝時代。侵入してきた異民族を追い払うため、司令官に任命されたのは将軍で老齢の趙充国だった。彼は「百聞は一見に如かず」と訴え、現場に駆けつけ指揮を取りたいと願い出たという▼ことわざの続きには続きがある。聞くよりも見る、見るよりも考える―と「考・行・果・幸・皇」と5つの言葉が並ぶ。自分の語訳によって意味が変わるこれらは実に興味深い▼現場の熱量を肌で感じ行動したことが結果に繋がる。1つの工事で暮らす人が幸せになることを嬉しく感じる。一人の技術者がそう語った。(鴎)
みちしるべ
2024-07-31
不思議なもので、匂いから遠い記憶が呼び起こされることがある。若いころ、取材で県庁に行くのが嫌で、県庁地下通路の匂いが忘れられない。今になっても地下通路を歩くと、ふと当時を思い出す▼目や耳から入った情報ではなく、嗅覚を使った特定の匂いが過去の記憶や感情を鮮明に蘇らせる。この現象は「プルースト効果」と呼ばれるらしい。ホテルの入り口などでいい香りがするのは、その効果を印象付けに使っている例だ▼50代後半と見えるベテランの技術者と話す機会があった。「現場には独特の匂いがするんです」と、微笑みながら言う。重機の油臭か、排ガス臭かと思いきや、どうも違う▼これまでに得た知識や経験とともに、独自の感性が磨かれたのだろう。「どんな匂いですか」―と、詮索は控えた。(鷲)
みちしるべ
2024-07-29
ニューヨーク市の犯罪事情に関する記事を見た。80年代、同市では年間2000件以上の殺人事件をはじめ、60万件以上の重犯罪が発生していた▼当時の行政は多額の予算をかけ、落書きや地下鉄の無賃乗車の取り締まりを強化した。重犯罪が頻発する中、なぜ落書きや無賃乗車なのか、と市民は批判。しかし、この施策後5年で殺人は6割減、重罪は半減した▼この成功の基になったのが「割れた窓理論」。割れた窓を放っておく、するとその窓を見た人は他の窓を割っても誰も気にしないだろうと考える。割れたまま誰も直そうとしない窓が次の犯罪の呼び水になる▼建設業でも、「これぐらいなら大丈夫」と安全対策がおざなりになり、事故に繋がる。地道な安全対策を徹底することが重大事故の芽を摘むことになるのだろう。(雛)
みちしるべ
2024-07-26
短い梅雨だったが、地域によっては激しい雨が降る時間もあり、土砂が崩落するなどの被害も出た。季節は盛夏。「きれいな夏空」という言葉は、もう使えないほどの酷暑が続く▼学校は夏休みだが、昔とは違って川や海辺で子供だけで遊ぶ姿は見かけない。それでも、近くの広場で汗まみれになってボールを追う姿を見つけると、なつかしい思いがよみがえる▼大変な思いをして働いているのは炎天下や風も通らない建物内部での工事。さらに、照り返しをもろに受ける屋根の上や屋上などで働くすべての人達だろう▼猛暑だけではなく豪雨や豪雪の日。そして、危険な災害現場の緊急対応に駆けつける。昼夜を問わずに地域を守る現場の主役は、いつの時代もこの人達だ、ということを片時も忘れてはいけない。(鷺)
みちしるべ
2024-07-25
大手生保による夏休みに関する調査によると、出費計画が二極化しているそうだ。旅行や帰省に使う予算を「増やす」と答えた人は16・0%で前年と同水準だった一方、「減らす」と答えた人は5ポイント増の20%となり、減らす人が増やす人を逆転。ともに理由は物価高や円安の影響による旅行費用の高騰と同じだが、対応は、費用はかさむがお金をかける人、節約する人に二分された。ちなみに、全体平均は前年比14・2%増の8万2964円。8万円台への復活は6年ぶりらしい▼夏が終われば、工事発注は後半戦に入る。適正な請負代金の設定をはじめ、発注側が節約志向ではなく、しっかりとした物価高対策を講じ、利益を「減らす」事業者が少なくなることを願ってやまない。(鴛)
みちしるべ
2024-07-24
取材先で出会ったある技術者は、「仕事は嫌い」と一蹴する。やり甲斐や達成感とは無縁の、ただの「食い扶持」に過ぎないと言ってはばからない▼しかし彼は、現場で絶対にミスをしないのだ。問題が起きれば工期が遅れ、事実確認に時間を取られる。とにかく早く仕事から解放されたいものだから、不安の芽を潰す手間を惜しまない▼結果的に良いものを作り続ける彼を、会社も職場の人々も、発注者も認めている。かといって表彰受賞の感想が「ああ、うん」では、こちらは困ってしまうのだが▼仕事に対するエンゲージメント(熱意)の向上が叫ばれる。だが、本当に万人に必要なものなのか。粛々と目の前の仕事をこなす、「職人肌」と呼ぶべき伝統的な仕事観まで捨て去るべきなのだろうか。(鵯)
みちしるべ
2024-07-23
本格的な夏シーズン。暑い日が続く。もっとも、近年は四季ではなく、夏と冬の二季と言ってもよいだろう▼「夏」という単語の語源は諸説ある。一つは作物が木や畑に「なる」から。もう一つはとても「あつ」いから。そして最後は太陽光で様々なものが「ねつ」を帯びることから。直接「なつ」とは言っていないが、どれも音は近い▼最近の暑さは命の危険すら感じるレベルだ。熱中症警戒アラートもたびたび発表されている。工事も本来は止めるべきだろうが、工期の都合上、止められない▼ある自治体では猛暑日の場合の工期延期などを検討している。ただ、現実化は難しい雰囲気だ。猛暑で工事を止めざるを得ないなら工期延期を、止めないのであれば経費を上乗せ対応しても良いかもしれない。(隼)
みちしるべ
2024-07-22
今日7月22日は、下駄の日。「七寸七分」など、下駄の寸法に7がよく使われ、下駄の歯型を並べると「二二」の模様になることから全国木製はきもの業組合連合会が制定した▼下駄は日本の伝統的な履物で、「下」は地面を意味し、「駄」は履物を意味する。明治時代から外出する際、下駄を履くのが普及したことで下駄箱という家具も生まれた▼長年馴染み深く使われてきた下駄箱という言葉。今では「靴箱」などと違う呼び方が自然になり、下駄箱がジェネレーションギャップを感じる言葉になるのも時間の問題なのかもしれない▼言葉に限らず時代によって変化する世の中。建設業界の人材確保は、今の働く人達がジェネレーションギャップを感じるくらい、働き方に変化を加えるのが大事になる。(鴎)
みちしるべ
2024-07-19
雨の日の休日。悠々自適に晴耕雨読とはいかない。草に覆われた庭を見れば、放っておくわけにもいかず、むしり取る。この後始末も大変だ▼梅雨は明けたころか。先日の雨では、災害復旧中の現場がいくつかやられたと聞いた。「梅雨末期の大雨」と言われるように、注意を怠らないようにしたい▼人手不足で下請けや、資材を運ぶ運転手もいないといった声が相次ぐ。さらに物価の高騰が追い打ちをかける。一方で「払うものを払えば、ヒト、モノも集まる」と言う業界人がいる。つまり「賃金(カネ)が安いからだ」と▼賃上げは一部にとどまり、他産業との格差が拡大しつつある。売上が横ばいのままで、人件費だけ増やせられるか。簡単な構図に経営者の多くが悩まされている。(鷲)